本研究では、革新的機能を有する材料開発を目的として、機能分子や高分子、金属錯体、粒子などをテーラーメイドで集積・ハイブリッド化する自己組織化手法の開発に取り組む。研究の鍵となるのは、研究代表者の開発したペプチドブロックという両末端に核酸塩基構造を有する環状β-シートペプチドである。ペプチドブロックは(1)核酸塩基の相補的認識、およびβ-シートを形成するペプチド鎖長のマッチングという単純なプログラムに基づいて分子設計を行うことで、階層的な自己組織化によりペプチドブロックを任意の配列に集積化することができる。また、(2)ペプチドブロックの側鎖官能基を利用して金属や有機分子を配置することで、固体基板上に1次元配列化異種金属ワイヤーなどの多様な2次元あるいは3次元ナノ構造体を構築することができる。 初年度となる今年度は、ペプチドブロックの相補的自己組織化の基礎的知見を得ることを目的として、溶液中におけるペプチドブロックの会合・分子認識挙動の検討を行った。まず、チミン骨格を有する塩基対形成アミノ酸を組み込んだペプチドを合成し、溶液中における立体構造および会合挙動について研究を行った。その結果、期待通りにペプチドは塩基対形成アミノ酸をターン部位とし、溶液中で安定なβ-ヘアピン構造を形成することが明らかとなった。また、チミン部位はジアミノピリジン誘導体と相補的な水素結合に基づいて1:1の会合体を形成することが確認された。本成果はChemical Communication誌にて報告するとともに、国内および国際会議にて発表を行った。また、ジアミノピリジンおよびシトシン骨格を有する塩基対形成アミノ酸の合成を行い、Wang樹脂を用いた固相合成法によってこれらの核酸塩基を組み込んだペプチドブロック分子を合成した。2次元NMR測定から、これらのペプチドブロックが溶液中においても安定な環状β-シート構造を形成していることが明らかとなった。
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