細胞イメージング技術は近年飛躍的に向上し、あらゆる生命科学分野で用いられているが、未だに分子レベルでの作用機序や、物質の局在の状態については、ほとんど分かっていない。細胞内分子の動きをより詳細に理解するためには、見る技術(GFP、Fluo2等)だけではなく、物質を光放出する技術(ケージド化合物)が有用である。ケージド化合物とは、生命活動に必要な活性物質と光分解性保護基(ケージング基)とを組み合わせた分子で、光分解により瞬時に活性物質を放出する機能を持つ。ケージド化合物に用いられる光分解性保護基の種類はそれほど多くないが、近年の可視化技術のハード面の発展と共に、光分解性保護基自体の発展も必要とされてきているため、本研究ではケージド化合物に使うための新規光分解性保護基の開発を行ってきた。本研究で新たに開発されたニトロアニリン骨格を持つ光分解性保護基は、カルボン酸部位を有する生理活性物質を保護するのに適している。この新規光分解性保護基に関して、まず光で酢酸を放出するテスト化合物を複数合成し、置換基の導入位置の違いによる光物性の違いを検討し、構造最適化を行ってきた。その結果、ケージド化合物に必要とされる物性、例えば暗所での安定性、350nm付近の紫外線の吸収効率、光分解による生理活性物質の放出効率に優れていることが示された。この光分解性保護基光で酢酸酸を放出することが確認された。光分解の量子収率は0.08で、この値はすでにケージドグルタミン酸としての実用化されている化合物と同程度の値であり、新しいケージド化合物のプラットフォームとしての有用性が示された。
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