環状ビス(3'-5')ジアデニル酸(c-di-AMP)の生理活性探索として、淡水域に生息する緑藻類の一種であるクラミドモナスの細胞分裂に焦点をあて、c-di-AMPが細胞分裂に及ぼす効果を調査した。光を照射しながらクラミドモナスを種々の濃度のc-di-AMPを含む標準的な条件下で培養したところ、培養後の細胞数がc-di-AMPの濃度10 μMのときに最大となり、0 μM (コントロール) の条件と比較すると、42%の増殖促進効果が見られた。同一条件下、5'-AMP (5'-アデニル酸) およびcAMP (環状アデノシン一リン酸) の促進効果は、それぞれわずか14%および17%であった。次に、2'位が水素、メトキシ、フッ素で置換されたc-di-AMP誘導体を、これまでに開発した方法により市販のアデノシンホスホロアミダイトから9段階、通算収率28-32%で合成した。これらの誘導体を、先に確立した培養条件で生理活性を調査した。その結果、メトキシ体 (45%の増加) > c-di-AMP (41%) > デオキシ体 (28%) > フルオロ体 (26%) の順に、増殖が促進された。いずれの誘導体も細胞増殖を促進することが明らかとなった。HPLC分析における保持時間から、脂溶性 (細胞膜透過性) はメトキシ体がc-di-AMPよりも高いが、生理活性はほぼ同等である。増殖促進効果には、脂溶性だけではなく、ホスホジエステラーゼとの反応性、受容体との親和性なども影響を与えているものと推測される。
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