本研究では電子移動を抑制するインスレーター分子を介して多数の蛍光色素をDNAに導入することにより高輝度なラベル化剤(DNAドット)を開発することを目的としている。平成22年度はインスレーター分子の合成及びその物性評価を行った。インスレーター分子としてisopropylcyclohexaneを二重鎖の対応する位置に導入したところ、二重鎖が大幅に安定化することが分かった。すなわち、インスレーターが疎水性相互作用により二重鎖を安定化する"人工塩基対"として機能することを見出した。また、NMRによる構造解析の結果、インスレーター分子は非平面構造を持つにもかかわらず、二重鎖の内部に位置することが明らかとなった。このインスレーター塩基対を蛍光色素(ピレン)-核酸塩基間に導入したところ、ピレンの量子収率が数百倍増大することを見出した。更に、ペリレンジイミド-核酸塩基間にインスレーター塩基対を導入したところ、量子収率を数千倍向上させることに成功した。一方、平面構造を持つbipheny1を導入したところ、量子収率の増大は見られなかったことから、インスレーターは非平面構造を持つ必要があること分かった。このように、インスレーター塩基対は効率的に電子移動を抑制し、核酸塩基からの消光を抑制できることを明らかにした。平成23年度はインスレーターを用いた色素-色素間の電子移動の抑制を試みる。また、分子認識能を有するインスレーター塩基対の合成も行う予定である。
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