研究概要 |
光合成の明反応では、1)光アンテナによる太陽光の捕集、2)正孔・電子への光電変換、3)酵素の活性中心への正孔・電子伝達、4)酸化・還元反応、が生じている。光合成過程に見立てた物質変換システムを確立するためには、光電変換により発生する正孔・電子を酵素の活性中心に輸送する電子伝達システムを開発しなければならない。本年度は、光アンテナと活性中心を連結するスペーサーとしての役割だけでなく、光アンテナから活性中心への方向性をもった正孔輸送を仲介する媒体である「正孔輸送リレーユニット」の開発を試みた。DNAは高度に組織化された自己集合体を形成し、有機化学的手法により配列上の任意の位置に様々な化学修飾を導入可能な生体高分子である。特に、光増感剤と核酸塩基の間の光誘起電子移動により発生した正孔が、DNA内を100Åにわたって移動(Nunez, M.E., et al. Chem. Biol., 1999,6,85)し、グアニンよりも酸化電位の低い有機分子に正孔が伝達される(Takada, T., et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 2004,101,14002)ことから、「正孔輸送リレーユニット」として適している。金電極上に固定化した紫外光増感剤を含むDNA自己組織化膜にUV照射することによって観測されるカソード光電流応答は、正孔がDNAを経由して金電極まで輸送されていることの指標となる(Okamoto, A., et al., J.Am. Chem. Soc., 2004,126,14732)。そこで、可視領域に強い吸収を示し、遠方グアニン部位の酸化損傷を誘発することが知られている[Ru(bpy)(dppz)(phen)]^<2+>(Ru(II)錯体)(Arkin, M.R., et al., Chem. Biol., 1997,4,389)を修飾したDNA自己組織化膜を金電極上に作製した。可視光照射時における光電流応答を観測した結果、カソード光電流応答由来の光電流応答が観測された。以上より、Ru(II)錯体修飾DNAが可視光照射により連続的かつ方向性をもった正孔輸送を誘発する「光アンテナ-リレーユニット」複合体として機能することが実証された。
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