光合成の明反応では、1)光アンテナによる太陽光の捕集、2)正孔・電子への光電変換、3)酵素の活性中心への正孔・電子伝達、4)酸化・還元反応、が生じている。光合成過程に見立てた物質変換システムを確立するためには、光電変換により発生する正孔・電子を酵素の活性中心に輸送する電子伝達システムを開発しなければならない。昨年度までに、Ru(II)錯体を「光アンテナ」、DNAを「リレーユニット」として設計したRu(II)錯体修飾DNAが、可視光照射により連続的かつ方向性をもった正孔輸送を誘発する「光アンテナ-リレーユニット」複合体として機能することを実証した。補酵素を活性中心とする酵素は、酵素の機能を損なわずに、補酵素に化学修飾を導入できる可能性がある。そこで一例として、酵素の機能と構造に関する詳細な知見が明らかになっている補酵素ピロロキノリンキノン(PQQ)依存可溶性グルコース脱水素酵素(sGDH)に着目した。Ru(II)錯体の可視光照射により発生した正孔が、活性中心となる還元体PQQH2に到達して、二電子酸化反応により酸化体PQQに変換することができれば、光駆動型オキシダーゼの活性モチーフとして利用することが可能となる。そこで、本年度は、PQQがDNAを介した正孔輸送により、還元体PQQH2から酸化体PQQに変換されることを実証するためにPQQを「活性中心」、DNAを「リレーユニット」として設計したPQQ修飾DNAを作製した。PQQ修飾DNAを電極上に固定化し、電位を正に印可した条件下で電流応答の確認を試みたところ、負電荷を有するDNAが電極上に誘引されることで、電極とPQQの間の直接の電子移動が生じていることが示唆された。そこで、正孔輸送の媒体となり、かつ中性の骨格を有するペプチド核酸(PNA)に着目し、PQQを修飾したPNAを合成した。
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