細胞内では、ミスフォールドタンパク質や、不要になったタンパク質を細胞から除去する品質管理機構が働いており、ユビキチンは不要なタンパク質の目印となる『分解タグ』として重要な役割を担っている。本研究課題では、この様なタンパク質の品質管理機構を利用し、病因タンパク質を細胞内で分解するシステムの開発を目的とした。標的タンパク質として、転移性乳ガンで高発現しているクロマチンリモデリング因子であるSATB1を選択し、SATB1にユビキチン付加を誘導する機能性分子を設計することで、病原タンパク質のユビキチン化を誘導する新規機能性分子の設計と乳ガン細胞に対する増殖抑制効果を評価した。 SATB1がDNA結合性タンパク質であることを利用し、SATB1をトラップする足場として、SATB1の認識配列を有する16量体の二重鎖DNA(デコイDNA)を設計した。デコイDNAの一方の鎖の5'末端に、ユビキチンリガーゼであるXIAPをリクルートするシグナルペプチドをコンジュゲートした(degron-Decoy)。合成したdegron-DecoyをMDA-MB-231乳癌細胞株に導入し、細胞増殖抑制効果を評価しようと試みた。しかし、SATB1が局在する細胞核内にdegron-Decoyを送達することが極めて困難であることが明らかとなった。種々の核酸導入試薬を用いてもこの問題点を解決することが出来なかったため、degron-Decoyに核移行シグナルペプチド(NLS)を導入してさらなる高機能化を図った。NLSとして、既報でその有効性が確認されているSV40のNLS配列に加え、SATB1のNLS配列を選択し、degron-Decoyに導入した(degron-NLS-Decoy)。SATB1のNLIS配列を介してdegron-NLS-Decoyが細胞核内に送達されることで、SATB1自身の核移行が阻害され、さらなる効果が期待される。また、SATB1陽性でMDA-MB-231細胞より核酸の細胞内導入効率の良い細胞を、HCT-15細胞を用いて作成した。今後、作成したSATB1陽性細胞ならびにdegron-NLS-Decoyを用い、degron-NLS-Decoyの核酸医薬としての有効性評価を行っていきたい。
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