ヘアピン型ペプチド核酸(PNA)は、標的遺伝子に対してワトソン-クリック塩基対、およびフーグスティン塩基対を形成する2つのPNA鎖をリンカー分子で架橋したものであり、標的遺伝子を挟み込んでその発現を抑制する分子として知られている。本研究では、ヘアピン型PNAのリンカー分子に、独自に開発した可視光応答性アゾベンゼン型アミノ酸(AZO)を導入し、標的遺伝子の転写を光制御することを目指した。 まず、ヘアピン型PNAのリンカー分子を従来型のアミノエチルエトキシ酢酸からAZOに変更したところ、相補鎖への会合特性が約10倍向上した。しかし、標的配列にポリプリン配列が含まれる場合、2分子のヘアピン型PNAが1分子のDNAに会合してしまう問題が生じた。鋭意検討の結果、ヘアピン型PNAのリンカー分子にAZOに加えてβ-アラニン(b-Ala)をスペーサーとして用いると、1分子のヘアピン型PNAが標的DNAのポリプリン配列を挟み込んで安定なPNA:DNA=1:1の会合体を形成することを見出した。 また、ヘアピン型PNA-AZO-(b-Ala)のアゾ骨格をトランス型からシス型に幾何異性化させると、PNA/DNA間の会合体形成能が低下することを確認した。トランス型のヘアピン型PNA-AZO-(b-Ala)は、インフルエンザウイルスゲノムをマウス白血病ウイルス由来のポリメラーゼにより逆転写する過程を効果的に阻害するだけでなく、イヌ腎臓培養細胞内でのインフルエンザウイルスのゲノム増幅を抑制することを見出した。そこで、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン蛋白質とGFP蛋白質をコードするプラスミドを作成し、ヘアピン型PNA-AZO-(bata-Ala)と共に細胞内へトランスフェクションしたところ、アゾ骨格をトランス型に光異性化させた場合にのみGFP蛋白の発現が抑制されることを明らかにした。
|