DNAのメチル化は細胞の発生や分化を制御し、癌化にも密接に関連しているため、メチル化解析技術の開発は生命現象の解明のみならず疾患の原因解明や医療への応用も期待され、重要性が高い。一般的なメチル化検出法である亜硫酸水素塩法や我々がこれまでに開発したオスミウム酸化法は、サンプルDNAを一本鎖に解離する煩雑性がある。本研究は、穏和な条件で二本鎖DNAのメチル化をそのまま簡便に検出するために、亜鉛フィンガー蛋白質を基本骨格として二本鎖DNAのメチル化を特異的に認識する人工蛋白質を作製し、これを用いてDNAメチル化の検出および可視化を目指している。平成22年度は、亜鉛フィンガーを基本骨格とした人工蛋白質の分子設計とメチル化DNA認識能の評価を行った。 亜鉛フィンガーモチーフは、メチル化修飾を受けるCpGのシトシンに配列特異的に結合するが、メチル化の有無に関わらず全く同様に結合し、メチル化を区別することができない。シトシンのメチル化を認識するために、メチルシトシンと相互作用するアミノ酸残基の分子設計を分子モデリング計算を用いて行った。CH-π相互作用によるメチルシトシンとの相互作用を狙って、アミノ酸側鎖に芳香環を導入した。さらに芳香環の配向固定やパッキング、周辺残基や標的DNAとの相互作用の向上を狙って、芳香環側鎖への置換基導入も検討した。分子設計の結果を基に59残基からなる人工亜鉛フィンガーペプチドをFmoc固相合成法で作製し、この亜鉛フィンガーペプチドとメチル化DNAとの親和性をゲルシフトアッセイを用いて評価した。ニトロ基、水酸基、スルホン酸等、種々の置換基を導入した芳香環側鎖を有するアミノ酸のうち、リン酸化チロシンがメチルシトシンを含むDNAに対して最も高い親和性を示した。^<31>P-NMR測定からリン酸化チロシンと近接アミノ酸残基との水素結合による芳香環側鎖の配向固定が示唆され、芳香環側鎖の配向がDNAとの複合体形成にも関与していると考えられる。
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