本研究は、インターカレーション正極の構造変化と相境界移動に注目し、薄膜リチウム電池のInsitu顕微ラマン分光法により、その可視化と定量評価を行うこと目的としている。今年の目標は、(1)コバルト酸リチウム(LiCoO_2)正極を用いたin situ顕微ラマンイメージング分光法の開発および(2)種々の正極薄膜のin situ相境界移動計測である。 (1)厚さ200nmのLiCoO_2薄膜正極を用いてin situ顕微ラマン測定を行った。共焦点顕微鏡とラマンスペクトルを組み合わせることにより、LiCoO_2のH1相(x=0.95)とH2相(x=0.75)の相境界を明瞭に区別することに成功した。微小電流に対応したポテンショ/ガルバノスタットを導入し、充放電速度依存性を検討した結果、スキャンレート0.2mV/s以下でのみ充放電にともなうラマンスペクトルの変化が検出された。この結果は、横方向へのLiCoO_2の相境界移動速度が極めて遅いことを示す。また充電時と放電時のin situラマンスペクトルの変化を比較した結果、大きなヒステリシスを示すことを見出した。この結果は、LiCoO_2へのリチウムの挿入とリチウム脱離で相境界の移動速度が異なることを示唆している。これらの結果は、12th Asian Conference on Solid State Ionics、日本物理学会、固体イオニクス討論会等において発表された。 (2)LiMn_2O_4、SnO薄膜を作製し、薄膜電池のin situ顕微ラマン分光測定を行った。その結果、Li_xMn_2O_4ではx=0^-2までの広い範囲でラマンスペクトルの検出が可能であるが、Li_xSnOにおいてはリチウムを挿入すると金属化によりスペクトルが検出されなくなることが分かった。
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