本研究では、in situ顕微ラマン分光法を用いて、全固体薄膜電池のインターカレーション正極の構造変化と相境界移動を明らかにすることを目的とした。最終年度である今年は、東日本大震災による被害のため数か月遅れたが、その後は順調に復旧が進み、以下の成果を得ることが出来た。 (1)コバルト酸リチウム(LiCoO_2)のin situ顕微ラマン分光により、充放電によりリチウム量を変化すると共にLiCoO_2の構造がH1、H1/H2二相共存、H2、M、H2'と連続して変化することを明らかにした。ラマンマッピングにより二相共存領域での相境界を観察し、その移動速度を見積もった。リチウム挿入時とリチウム脱離時に、拡散経路の空隙の差に起因する、相境界移動速度の違いがあることを見出した。(2)マンガン酸リチウム(LiMn_2O_4)のin situ顕微ラマン分光により、同様に、リチウム量を変化させると、LiMn_2O_4、Li_0.5Mn_2O_4、λ-MnO_2と構造変化が進むことを明らかにした。マッピングにより二相共存領域の相境界を観察したところ、移動速度はLiCoO_2よりも遅く拡散係数が小さいことを明らかにした。(3)LiCoO_2の充放電を繰り返すと、in situラマンスペクトルの強度が徐々に減少することからin situラマン分光法を劣化検出に応用できることを見出した。XRDや高分解能TEMなどから、サイクル劣化によるラマンスペクトルの変化はナノ粒子化とリチウム欠損が原因であることを明らかにした。(4)スピネル構造のLiCoMnO_4正極を用いた全固体薄膜電池を作製し、4.9Vと5.1Vで繰り返しリチウムを挿入・脱離可能であることを示した。 以上の成果は、固体イオニクス国際会議(ポーランド)、日本物理学会、固体イオニクス討論会などで発表された。
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