本研究では、配向分極した有機膜を含む有機EL素子における素子特性と劣化機構の解明を目的とした。昨年度は具体的な研究内容を次の3項目に定めた。1. Alq_3蒸着膜の成膜中に生じる電荷蓄積要因の解明、2. 有機ヘテロ界面における電荷蓄積機構の解明、3. 配向分極膜を含む有機EL素子の劣化機構の解明。これらの研究項目に対し得られた成果を示す。 光照射下で成膜したAlq3分子膜中に生じる電荷蓄積要因について解明するため、この膜を含む有機EL素子を作製し、その発光効率、劣化特性、電荷蓄積特性を調べた。この素子は、暗状態で作製した通常素子と比較して発光効率が低く劣化しやすいことがわかった。光照射素子ではAlq3膜中に蓄積される電荷(正孔)量が多く、これらが性能低下をもたらすものと考えられる。一方で、光照射素子は通常素子よりも高いコンダクタンスを示す傾向があった。Alq3膜の電子移動度測定でも、同様の傾向が確認された。これらの結果から光照射Alq3膜に生じる電荷蓄積要因は、分子配向度の向上による可能性が示唆された。次に、有機ヘテロ界面における電荷蓄積機構について、いくつかの手法を用いて多角的に検証し、分子膜の配向分極が電荷蓄積要因となることを複数の材料において証明した。さらに、分子の永久双極子そのものがヘテロ界面近傍のポテンシャルの乱れを誘起し、面内方向の電荷移動を抑制することを指摘した。また、これまでとは逆極性の配向分極を持つ材料を発見し、その有機膜を含む有機EL素子の動作・劣化機構を調べた。その結果、蓄積電荷の極性が反転していることを確認し、劣化に伴って分極電荷量が減少する傾向を見いだした。
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