形成加工性を有するπ共役高分子は延伸加工技術を用いることにより、高分子鎖が一方向に揃った配向薄膜が作製可能であり、その優位性を再構築することで現在の有機デバイスの主流材料である低分子有機半導体を遥かに超える可能性がある。その高いポテンシャルと現在までに申請者が確立した有機デバイス作製技術を応用し、主目的として高配向の高分子薄膜を用い、低分子有機半導体の多結晶、単結晶のキャリア輸送の限界を超える有機トランジスタの作製、発展研究として高配向の高分子薄膜を用いた高性能有機デバイスの作製を目的とする。 平成22年度は延伸による配向π共役高分子薄膜の作製、評価として、1.最適な延伸条件の探索(膜厚、延伸比率)、2.延伸に適したπ共役高分子材料の探索(膜質、重合度)、3.配向薄膜の評価(偏光吸収、XRD、AFM)を行った。 材料として現在の有機デバイスで良く用いられている結晶性のrr-P3HT、液晶性のPFO、アモルファス性のMEH-PPVを用い、5倍延伸した場合、いずれの材料においても偏光吸収の異方性を示し、延伸方向と平行にπ共役主鎖が配向していることが分かった。高分子の配向薄膜作製手法には様々な方法があるが、上記3つの結晶、液晶、アモルファス性薄膜いずれをも高度に配向させる手法は無く、延伸法が配向薄膜作製法として極めて優れていることを証明した。唯一例外として延伸配向に適していない材料系は、薄膜中での結晶性が非常に高いチエノチオフェン構造を有するポリマー(PBTTT-C10)が挙げられる。このポリマーは有機トランジスタで最も高い正孔移動度(1.0cm^2/Vs)を示す材料ではあるが、膜質が多結晶の集合体となるため、延伸後に多結晶間に大きなギャップが見られ、電気伝導には適していないことが分かった。
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