本研究は、凝集体形成が立体構造的に抑制されると期待できるメタルフリーな三脚型有機色素の開発を通して、色素増感太陽電池の高効率化に資する増感色素の設計指針を確立することを目的としている。一般に、増感色素は可視光から近赤外光に至る幅広い太陽光のエネルギー分布に対応した吸収を示し、酸化チタンの伝導体及び電解液のヨウ素レドックスと比較して適切なエネルギー準位にあるHOMO、LUMOを有する必要がある。今年度は、スクアリリウム系色素を脚部に持ち、コア部にトリフェニルアミン骨格を有する三脚型増感色素の合成と光学及び電気化学的特性を評価した。分子末端がヨウ素化された2種類の非対称型スクアリリウム系色素を対応する複素環と四角酸誘導体との段階的な縮合反応により合成した。続いて、色素ヨウ素体とトリス(4-エチニルフェニル)アミンの薗頭クロスカップリングにより三脚構造を有するスクアリリウム系色素を得た。また、比較のためにトリフェニルアミンに1等量及び2等量の色素成分を導入した化合物も合成した。これらはいずれも650nm付近にシャープで強い吸収を示した。スクアリリウム系色素の導入数の増加に伴いモル吸光係数も増加し、三脚型色素では約850000(M^<-1>cm^<-1>)と非常に大きな値を示すことが明らかとなった。また、光学特性に関して検討を行う過程で、三脚型色素の二光子吸収特性についても検討し、高い二光子吸収断面積を有する事が明らかとなった。サイクリックボルタンメトリーより見積もられたHOMO準位はヨウ素の酸化還元電位よりも正であり、LUMO準位は酸化チタンの伝導帯エネルギー準位より負であることが示され、三脚型スクアリリウム系色素が増感色素として利用可能であることが示された。
|