研究概要 |
光の波長程度の空間スケールで誘電率が周期的に変化した構造体はランダム媒質と呼ばれる。ランダム媒体では多重散乱光の干渉に基づく興味深い物性・現象が起こることが知られている。平成22年度は,金属酸化物の形態制御によりランダム媒質を作製し,多重散乱光の閉じ込め効果の評価ならびに光の波長,波数ベクトル,偏光の自由度を最大限に活用した光機能性の発現を目指した。 1.相分離を伴うゾル-ゲル反応を用いて,可視域で光吸収量が少なく,高屈折率の金属酸化物を対象に多孔構造を形成した。出発組成・反応温度の組み合わせ・熱処理により,サブミクロン空間が精確に制御されたクラック(亀裂)フリーのチタニア(TiO_2)やイットリウムアルミニウムガーネット(Y_3Al_5O_<12>)の多孔体を合成した。 2.金属酸化物の多孔体に対して,後方散乱光強度の角度依存性のピーク(コヒーレント後方散乱ピーク)幅から光の閉じ込め効果を評価したところ,多孔構造の細孔サイズと気孔率をパラメータとして光の閉じ込め効率を制御できることがわかった。特に,屈折率の高いルチル型TiO_2多孔体では,多重散乱光の干渉効果が顕著になり,光の輸送特性が拡散的挙動によって説明できないことがわかった。 3.ゾル-ゲル法で作製したCe^<3+>添加Y_3Al_5O_<12>多孔体においてCe^<3+>の光化学反応を観察した。通常の固相反応で作製したCe^<3+>添加Y_3Al_5O_<12>ではこのような現象は観察されないため,ゾルーゲル合成のような低温合成の場合にはYAG結晶格子に不完全構造(欠陥等)が導入される可能性が示唆された。加えて,Ce^<3+>の光化学反応が多孔体で起こると,光多重散乱の干渉により高密度光記録効果が観察され,光の波長,波数ベクトル,偏光の情報が多孔体内部に記録されることが明らかになった。
|