当該年度においては、高分子の各分子量成分における延伸配向構造解析を中性子散乱およびX線散乱で行った。特に本年度は高分子延伸配向試料に対して、極小角中性子散乱測定を行うことができた。まず、X線散乱測定から、ほとんど分子量による「結晶」と「非晶」の高次構造の依存性はほとんどないことを示した。これは、分子量によって結晶・非晶からなる高次構造がほとんど依存性がないことを示唆している。一方、中性子散乱測定から、分子量成分が小さくなるにつれて、配向度が高くなっていることがわかった。特に、10nm付近の構造が強く配向していることを示した。一方、極小角中性子散乱測定からは、ミクロンスケールの配向構造については、分子量依存性はほとんど見られず、ミクロンスケールのフィブリル状構造については、延伸条件のみで決定されるものであると考えられる。さらに、プロファイルを詳細に解析することによって、どの分子量成分がどのくらい配向しているかを定量的に評価した.その結果、10nmスケールの構造については、「構造の大きさ」はほとんど分子量依存性はないことが明らかとなった。すなわち延伸によって生じた配向構造は分子量に関係なく直径10nm程度の大きさの円柱状構造をしていた。また、さらに分子量が小さくなるにつれて延伸によって生じた配向構造の数密度に大きな影響があることが示された。分子量が小さくなるにつれて配向構造の本数が増大し、それによって中性子散乱で非常に強い散乱プロファイルが観測されることがわかった。
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