研究概要 |
代表的な非石油由来高分子であるポリ乳酸の成形性向上を目指し,結晶化速度の流動場を用いた制御が本研究の目的である.我々は新規手法として,ポリL-乳酸に光学異性体であるポリD-乳酸を微量添加することでステレオコンプレックスネットワーク構造を形成させ,この構造が流動印加により分子鎖がのびきったシシ構造を形成することで,ポリ乳酸の結晶化速度を大幅に向上させることを本研究を通じて提案する. 本研究で明らかにすることは,(i)添加するポリD乳酸の濃度や分子量がネットワーク構造に与える影響,(ii)ネットワーク構造の流動場での変形メカニズム,そして(iii)変形したネットワーク構造のポリL乳酸の結晶化速度促進メカニズムである.平成22年度の研究により,(i)のネットワーク構造解析に初めて成功した.これまでにステレオコンプレックス晶がネットワーク構造を形成することは溶融粘弾性測定,結晶化速度解析など間接的なデータにより推測されていたが,我々は大型放射光施設SPring-8において放射光広角・小角散乱同時測定法を用いることで,ステレオコンプレックス晶が架橋点となり,架橋点間距離が約10nm程度の緻密なネットワーク構造であることを初めて見いだした.このことについては23年度に論文発表,学会発表を行う予定である.またこのネットワーク構造は添加するポリD乳酸の分子量が低く,濃度が高いほど発達することも明らかになった.(ii)についてはネットワーク構造の流動場における変形挙動を光散乱実験により'その場観察'することに成功した.溶融状態ではポリL乳酸単体ではその速い緩和速度のために,流動印加直後には配向構造が消滅するが,ポリD乳酸添加試料では流動により高度に繊維配向した構造が形成され,数分という長い時間オーダーで存在し続けることが明らかになった.
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