研究概要 |
本研究で明らかにすることは,(i)ポリL乳酸に添加するポリD乳酸の濃度や分子量がネットワーク構造に与える影響,(ii)ネットワーク構造の流動場での変形メカニズム,そして(iii)変形したネットワーク構造のポリL乳酸の結晶化速度促進メカニズムである.このうち、(i)および(ii)については平成22年度の研究により明らかにした. 平成23年度の研究では(ii)において明らかになった、流動印可直後に形成される、数分オーダーの長い緩和時間を有する配向構造が(iii)どのようにPLLAの結晶化を促進するのかに着目をし、大型放射光施設SPring-8において放射光広角・小角散乱同時測定法を行うことで、PDLA添加による流動場でのPLLA結晶化促進効果のメカニズム解明を目指した.実際の結晶化では、PLLA単体と比較して50℃もの結晶化温度の向上が観察され,PDLA添加による大幅な促進効果が観察された.これは現在市販されている結晶造核剤の能力をはるかにしのぐレベルであり、実際の成形過程においても適用可能である.また結晶化に際し、ステレオコンプレックス晶を含むネットワーク構造が配向構造を優先的に形成し、さらに繊維構造の側面からPLLA分子鎖が折り畳みながら結晶成長するケバブ構造が観察された.このことはPLLA単体では形成されにくい繊維構造(シシ構造)がPDLA添加により多量に形成され、結晶化に有効な広大な界面を形成することによりPLLAの結晶化が促進されたものと結論づけられる. 以上の結果は上述した本研究の実施計画(i)(ii)(iii)を満たすものであり、学術的な結晶化機構の理解という目的と、工業的に重要であったPLLAの結晶化促進についての新規手法の開発という両面で意義深いものである.
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