ポリロタキサン(PR)は、複数の環状分子が1本の線状高分子に貫かれ、高分子の末端は環状分子が抜けないようにかさ高い分子でキャッピングされたネックレス状の超分子集合体である。PRの誘導体として高分子を環状分子に結合させたものをスライディング・グラフト・コポリマー(SGC)と呼び、グラフト鎖の結合点が主鎖に沿ってスライドあるいは回転可能な、全く新しいタイプのグラフトコポリマーととらえることができる。本研究課題では、SGCのダイナミクスを系統的に調べ、グラフト鎖の可動性がSGCの溶液や溶融体、固体の物性に与える影響を明らかにすることを目的とする。 本研究では、まず、側鎖としてアルキル基を導入したSGCを合成した。これらの特徴は、側鎖長が完全に均一であること、および側鎖長を炭素原子数個単位で厳密に制御することが可能なことである。アルキル側鎖の炭素数nは4から18まで、系統的に変化させた(Cn-g-PR)。また、C18側鎖を持つSGCについては、側鎖中央に二重結合を有するものも合成した。 合成したSGC固体の熱物性を示差走査型熱量測定により調べたところ、C18側鎖を有するSGC(C18-g-PR)のみ側鎖の融解が見られ、他については特に目立った熱的転移は見られなかった。すなわち、C18-g-PRのみ、側鎖が結晶性であることを示唆している。 次に、X線回折測定(XRD)により固体の構造解析を行ったところ、側鎖長が長くなるにしたがって拡大する周期構造が観測され、固体内でのSGCの分子間隔は側鎖長に比例して広がっていることがわかった。また、結晶性側鎖を有するC18-g-PRでは、側鎖の結晶化に誘起されて、CDが主鎖上をスライドし、パッキング構造を形成することが確認された。 現在、圧縮動的粘弾性測定により固体SGCのダイナミクスの解析が進行中である。
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