研究概要 |
1本の線状高分子が複数の環状分子によって包接されたネックレス状の超分子構造体であるポリロタキサン(PR)に対し、その環状分子上に側鎖をグラフトした誘導体をスライディング・グラフト・コポリマー(SGC)とよぶ。本研究では、SGCを実際に合成してそのダイナミクスを系統的に調べ、グラフト鎖結合点である環動分子の可動性がSGCの溶液や溶融体、固体の物性に与える影響を明らかにすることを目的とする。 本年度は圧縮動的粘弾性測定による固体SGCのダイナミクスの解析を中心に行い、軸高分子上での環状分子の運動性がSGC全体の分子運動にもたらす影響を詳細に調べた。前年度までに合成したアルキル鎖を側鎖に有するSGC(Cn-g-PR,n=4,8,12,18)について、・90℃-140℃の範囲で温度を変化させて粘弾性スペクトルを測定し、温度-時間換算則により粘弾性スペクトルのマスターカーブを得た。 損失弾性率スペクトルE"(ω)にはいずれもブロードなピークが見られ、アルキル鎖修飾PRが緩和挙動を示すことがわかった。この緩和挙動は、複数のセグメントのミクロブラウン運動に起因すると考えている。また、C8-g-PRとC12-g-PRでは、E"の主ピークに加えて、より高温・低周波領域に小さなピークが見られ、これまでの実験では観測されたことのない別の運動モードの存在を示唆している。現時点では、この運動モードは軸高分子上での環状分子のスライディングによるものであると推測している。これまでに、DOSYNMR法や中性子スピンエコー法など、軸高分子上での環状分子のスライディングを検出しようとする試みはいくつか行われているが、環状分子の運動と軸高分子の運動を分離して観測できた例はない。この緩和モードの原因を特定するためには、PR溶液あるいは溶融体の流動特性を調べるなど、さらなる検討が必要である。
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