豊富な天然高分子であるセルロースおよびキチンは「ナノウィスカー(棒状微結晶)」の水懸濁コロイドとして得ることができる。ナノウィスカーは極めて高い力学物性を有し、さらに低熱膨張性、生分解性、無毒性、低環境負荷などの優れた特性を有する。これらの特徴から、天然多糖類ナノウィスカーをナノコンポジットのフィラーとして用いる研究が、1990年代中頃から世界各国で盛んに行われている。しかし表面の荷電基の電荷反発によって分散するコロイドであるため、電解質の存在下および低極性の有機溶媒中ではその安定性を失い、急速に凝集・沈殿するという欠点があった。 申請者は上記の欠点を解決するため、ナノウィスカーの表面に高分子の片末端を結合して分散安定化する立体安定化ナノウィスカー懸濁液の調製を試みた。これにより、電解質溶液中や、ブラシ高分子の溶媒和する有機溶媒中への良分散が可能になると考えた。ナノウィスカー表面に1gあたり0.2~0.3gのポリエチレングリコール(PEG)を結合することにより、電解質存在下、および種々のpH下における分散安定性が劇的に向上した。トルエン中への分散は現時点では成功していないが、PEG鎖長および結合密度を制御することによって達成できる可能性がある。 また、ナノウィスカー表面処理の1つである表面カルボキシル化法として、酸化剤をシリカゲル粒子あるいは磁性微粒子表面に担持した固体担持酸化剤による酸化を試みた。いずれもセルロースナノウィスカー表面効率よく酸化でき、酸化剤を遠心分離あるいは磁力を用いて容易に回収でき、3~4回の繰返し利用が可能であった。 ナノウィスカーの応用例としてナノウィスカーをフィラーとしたナノコンポジット、特に補強PVA繊維および補強ヒドロゲルの調製を調製することに成功した。補強PVA繊維は最大で60GPaの貯蔵弾性率および最大破断強度値1.8 GPaを示した。
|