高分子材料に対するミクロ構造の定量的分析には、光散乱やX線散乱といった散乱技術が活用されてきたが、最近開発に取り組んでいる超音波散乱法を用いれば、高度に乳濁した懸濁微粒子や、光が全く通らないカーボンナノチューブ分散液の凝集構造を容易に分析可能である。しかしながら、これまでの超音波散乱の研究は、セラミックセンサー(~20MHz)の波長(75μm)と得られる信号感度の制限から、対象とする空間サイズがミクロン域(3~100μm)に限定されていた。そこで本研究では、超音波を用いながら、粒径がサブミクロンオーダー(100nm~1μm)の構造体に適用できる新たな動的散乱研究を展開し、乳濁した試料を希釈することなく、複雑なダイナミクスを解析できる新たな方法論を構築することを目的とする。 本研究ではサブミクロン動的超音波散乱法の開発のために大きく分けて二つのアプローチで望む。すなわち、(1)すでに高周波化の限界をむかえている市販の医療用セラミックセンサーに頼らず、目的に特化した(低出力・高感度受信の)高分子圧電デバイス作りと、(2)高強度のビーム印加によって乱された超音波フィールドを逆に利用した新しい分子ダイナミクス評価法の開発の2点である。昨年度の(1)に引き続き、本年度は(2)について検討した。 ビームのエネルギー、周波数を変え、粒径340nm~40μmの微粒子に対して動的超音波散乱実験を行ったところ、ビーム強度に対応して、微粒子の流れが加速されることがわかった。印加エネルギーの小さい領域では、従来の理論で解析を行うが、このとき場の乱れがない事を十分に確認しながら実験を行う必要がある。その一方で、印加ビームが強い領域では、ビーム強度にほぼ比例して運動速度が加速することが明らかとなった。予め強度と粒子の関係が校正されている場合、簡単に粒径計測が行えるようになった。
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