近年、磁気トンネル接合(MTJ)の微細化に伴う磁化の熱揺らぎ耐性の向上にむけて、従来の面内磁化膜を用いたMTJ素子ではなく垂直磁化膜を用いたMTJ素子の検討が進められている。実験では、面内磁化のMTJにおいて高いトンネル磁気抵抗比が得られているCoFeB/MgO系で垂直磁気異方性が報告されている。そこで本研究では、Fe/MgO(001)界面における垂直磁気異方性の起源を理論的にあきらかにするため、Fe/MgO界面構造と結晶磁気異方性の相関を第一原理計算により解析した。まず、界面のFeが酸素の直上にくるO-top構造とMgの直上にくるMg-top構造で結晶磁気異方性エネルギーを比較した。その結果、O-top構造では垂直磁気異方性が得られたのに対し、Mg-top構造では面内磁化が安定となった。O-topの界面ではFeのdz2軌道と酸素のpz軌道の結合により、面内に磁化を向かせるFe(dz2)軌道の電子数が減少して垂直磁気異方性が発現したと考えられる。一方、Mg-topの場合は、Fe(dz2)軌道とMg(pz)軌道の結合が弱いため、面内磁気異方性を示したと考えられる。また、これらの界面結合状態の磁気異方性への影響は、MgOとの格子ミスマッチによるFeの正方晶歪みの効果よりも大きいこと分かった。エネルギー的にはO-top構造の方がMg-top構造のより安定であるため、実験的に大きな垂直磁気異方性を得るにはO-top構造を有する急峻な清浄界面をいかに形成するかが重要であるといえる。
|