研究概要 |
近年のスピントロにクスデバイスにおいて、素子の微細化に伴う強磁性層の磁化の熱揺らぎ耐性の向上が大きな課題となっている。そのため、強磁性薄膜の磁気異方性に関する研究が盛んに行われている。例えば、不揮発性スピンメモリに応用されるFe/MgO界面では、FeとOの結合により大きな垂直磁気異方性が得られることが報告されている[1]。また、スピントランジスタにおいて重要となる半導体へのスピン偏極電流注入では、スピン注入効率を検出する円偏光発光解析において面内磁化型よりも有利であることから、垂直磁気異方性電極を用いた研究が行われている[2]。これまで、垂直磁化型のFePt/MgO/GaAsの系においてスピン注入効率29%(室温)が報告されている[2]。本研究では垂直磁化型の半導体への高スピン偏極電流注入源の理論設計を目的として、Fe/GaAs(001)界面における結晶磁気異方性の第一原理計算を行った。ここでは磁気異方性エネルギー(MAE)が正の場合に磁化容易軸は面直方向になっている。面内格子定数はFeの2.833[A]とした。まず形成エネルギーの計算より、熱的に安定な界面はAs終端であることが分かった。また多層膜構造のFe(13層)/GaAs(13層)のMAEは、1界面当たりAs終端界面で0.898[mJ/m^2]、Ga終端界面で0.469[mJ/m^2]となり、どちらも垂直磁気異方性が得られた。これらの値はFe(001)表面のMAEの値0.851[mJ/m^2]と同程度となっている。面直磁化の軌道磁気モーメントと面内磁化の軌道磁気モーメントの差は、界面第1層のFeのみ大きいことからFe/GaAs(001)界面の垂直磁気異方性は界面に起因すると考えられる。状態密度の解析から、特に界面Feのdx^2-y^2軌道とdxy軌道が垂直磁化に大きく寄与している。しかしながら、Fe13層の磁化の反磁界エネルギーは約2[mJ/m^2]とMAEよりも大きいため、実際に垂直磁化膜を得るためにはFe層を1nm以下まで薄くする必要がある。以上の結果は、今後Fe/GaAs系で垂直磁化型のスピン注入素子を実現するうえで大きな指針となることが期待される。 [1]T.Maruyama,et al.,Nat.Nanotechnol.4,158(2009).[2]A.Sinsarp,et al.,JJAP 46,L4(2007)
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