平成24年度では,これまでに得た成果に対して,その背景にある基本的物理の解明とさらなるテラヘルツ(THz)電磁波特性制御に取り組んだ。アンドープGaAs/n-type GaAs構造(i-GaAs/n-GaAs構造)におけるコヒーレント縦光学フォノン(以下,略してLOフォノン)からの高強度THz電磁波発生に関しては,i-GaAs層内の内部電場に起因すると結論していた。しかしながら,内部電場による増強機構が未解明であった。これを解決するために,有効励起光強度という概念を導入して,THz電磁波の内部電場依存性を詳細に調べた。結果,LOフォノン・THz電磁波の振幅は,内部電場に比例することが判明した。これは,LOフォノン・THz電磁波の増強機構が内部電場によって線形的に増強された初期分極に起因することを示す。 上記LOフォノン・THz電磁波増強機構に着目して,(11n)面方位In0.1Al0.9As/GaAs歪多重量子井戸(MQWs)におけるLOフォノン・THz電磁波に関して調査した。上記歪MQWsは,内部電場の一種であるピエゾ電場を有する。従って,ピエゾ電場に起因する初期分極の増大によって,LOフォノン・THz電磁波増強が期待される。結果,THz電磁波がLOフォノン周波数に対応する単色性を有することを明らかにした。この電磁波強度は,従来の概念を覆すほど高強度なものである。このことは,例えばテラヘルツ電磁波通信に応用できる可能性があることを示す。 加えて前年度に得られたGaSb/GaAs構造におけるLOフォノン・THz電磁波に関して,その特性に関して探索した。その結果,GaSb LOフォノンがGaAs LOフォノンとは異なる緩和過程を有することを明らかにし,かつ緩和過程に対するモデルを提案した。 上記の成果が示すように,平成24年度では,THz電磁波の物理に関して徹底した解明がなされた。
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