本研究の目的は、単結晶基板上にエピタキシャル成長させた機能性酸化物の薄膜を軽量で柔軟な高分子製フレキシブル基板上に接着したのち、もとの単結晶基板をエッチングして取り除くことで機能性酸化物エピタキシャル薄膜を高分子製フレキシブル基板へ転写する技術の基礎を確立することである。本研究においては、多様な機能性酸化物薄膜を高品質にエピタキシャル成長させることが可能なうえ、酸で容易に溶解するMgO(100)単結晶上に、誘電体SrTiO_3(STO)などの機能性酸化物をパルスレーザ堆積(PLD)法によってエピタキシャル成長させたのち、これを高分子製フレキシブル基板に接着し、MgO基板をリン酸でエッチングすることで「フレキシブル・機能性酸化物エピタキシャル薄膜」を得ることを提案した。 平成23年度は平成22年度に明らかになった、転写した機能性酸化物エピタキシャル薄膜がクラック・剥離する問題を解決する目的で研究を行った。平成22年度に使用した高分子製フレキシブル基板である厚膜レジスト材SU-8は柔軟性が大きすぎる点が問題であると考え、SU-8を接着剤として代表的な高分子製フレキシブル基板のポリエチレンナフタレート(PEN)にSTOのエピタキシャル薄膜を接着することを試みた。その結果、STOの膜厚が500nm以下でクラックフリー転写に成功した。また、そのフレキシブル性を確認する目的で転写したエピタキシャルSTO薄膜にクラック・剥離が生じない最小の曲率半径を調べる実験を行った。その結果、膜厚300nm以下のSTO薄膜では曲率半径5mmまでクラック・剥離を生じることなく曲げることができた。 本研究の結果、通常では印加することが不可能な巨大な歪みを機能性酸化物エピタキシャル薄膜に印加し、巨大歪みに対する電子物性の変化を詳細に調べるための基礎を確立することができた。
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