波長20nmから2nm程度の軟X線は可視光に比べ短波長であり、回折限界では原理的に数10nmの空間分解能が得られる。また、波長2.2-4.4nmの水の窓領域では厚さ数μmの生体試料を染色・脱水処理せずに生きたままで観察できる。このため、軟X線顕微鏡は生体・多元物質や磁性材料等の試料でナノスケール構の動的変化をビデオ観察できる究極の光学顕微鏡として注目されている。本研究では、申請者が独自に見出した非球面光学系をさらに発展させ、温度変化等の外乱下でも安定して回折限界分解能(30nm)で観察できる低収差かつ高結像倍率(1000x)をもつ顕微対物鏡を開発する。 23年度は、2面の回転対称非球面からなる対物鏡部の後段に1面の非球面鏡を付加し構成した2段結像による3面鏡で生じる収差を3次収差論により解析的に導出した。具体的には、既に導出済みの2面球面鏡の収差特性式を対鏡部および付加鏡部に各々適用し、瞳遮光量等の実用的な設計パラメータにより整理することで、光学系体で生じる3次収差の解析的表現を導出した。また、非球面鏡にチルトおよびシフト偏心を仮定し、偏心量の1次の範囲で偏心収差も同時に求めた。次に、得られたられた収差特性の解析表現を用いて、高倍率・広視野と、安定した高分解能観察に必要なミラーアイメント精度の緩和を両立した新規設計解を大域的に探索し、2種の新規解を見出した。さらに、新規実用解を、厳密な光線追跡法(数値シミュレーション)により評価最適化し、軟X線領域で回折限界結像が可能な新型光学系の光学設計を得た。これらの新規設計では、直径400μmの視野内で30nm程度の回折限界分解能を得ることができる。最後に得られた実用新規解を試作し、1000倍を超える高倍率が得られることを可視域で実証した。
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