薄膜成長技術を駆使して人工的に原子を一つ一つ積み重ねていくことにより新構造を作製し、物性を産み出すことがSiやGaAs等の半導体で実現されてきた。そのような技術を遷移金属酸化物に適用し、磁性や強誘電性、高温超伝導などの多様な物性を組み合わせたヘテロ構造を作製して新奇電子機能を探る研究が活発化している。近年、絶縁体同士のヘテロ界面における電気伝導性の発現が注目され、そのメカニズム解明に向けた精力的な研究がなされている。そのため、多彩な物性を示すペロブスカイト酸化物薄膜やヘテロ構造の物性開拓のためには、原子レベルでの表面・界面構造や初期成長過程の理解が、その起源を探るうえで重要となる。 本研究では、パルスレーザー堆積法(PLD)と極低温走査型トンネル顕微鏡/分光(STM/STS)で構成される複合装置を用いて、機能性ペロブスカイト型酸化物薄膜成長初期過程を原子レベル観察すること、および界面電子秩序を解明することを目的とした。 具体的内容としては、酸化物薄膜成長に従来用いられてきたSrTiO_3基板表面は原子スケールでは無秩序であること、およびその基板上に成長させたホモエピタキシャルSrTiO_3薄膜の成長モードの違いによる表面構造を観察した。さらに、真に原子レベルで秩序構造を有する原子制御基板[SrTiO_3(001)-(√<13>×√<13>)-R33.7°表面]の作製に成功した。この基板表面上にSrTiO_3やLaAlO_3極薄膜を堆積すると、基板表面の余剰なTiが表面に拡散し、(√<13>×√<13>)構造となって安定化することを明らかにした。これは、エピタキシャル成長界面においてコヒーレントな成長が起きる様子を可視化したものである。本研究で遂行した真の原子レベルから観る酸化物薄膜研究が、デバイス特性向上につながる多くの知見を与え、より優れた高品質材料を創出することに繋がるものと期待できる。
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