本年度は、グラフェンスピン素子作製の際に重要となるグラフェン/磁性金属界面の相互作用の調査、およびグラフェンのエピタキシャル成長の検討を行った。前者について剥離法で作製したグラフェン小片(数層~単層グラフェンが含まれる)に種々の磁性および非磁性金属薄膜を蒸着し、金属-グラフェン相互作用を顕微ラマン分光により調査した。単層グラフェンと2層以上のグラフェンにおいて金属との相互作用の様相が異なることを明らかにした。多層グラフェンでは界面から2-3層目程度まで金属からのドーピングが生じることが明らかになった。一方、単層グラフェンで観察されたラマンスペクトルの変化は単純なドーピングの効果では説明できず、単層グラフェン/金属界面におけるグラフェンのC-C結合の軟化を示唆する。界面でC-C結合が弱まる原因として、グラフェンのπ軌道と金属のフェルミ準位近傍の状態との混成により生じたπ^*由来の状態(反結合性軌道)が占有されることが考えられる。後者については、α-Al_2O_3(0001)基板上にNi(111)薄膜をエピタキシャル成長させ、ベンゼンを前駆体に用いた超高真空化学気相蒸着法によりグラフェンを成長した。オージェ電子分光および反射光速電子線回折の回折強度プロファイルの変化から、グラフェンの成長過程のその場観察に成功するとともに、ベンゼン曝露量・基板温度の最適化により単層および2層グラフェンをそれぞれエピタキシャル成長することに成功した。さらに成長したグラフェン/Ni(111)薄膜から化学エッチングによりNi層を除去することで層数制御したグラフェンシートを下地から分離し、任意基板上にマニピュレートすることができた。
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