グラフェンへの高効率スピン注入を実現するため、グラフェン/磁性金属接合を利用したグラフェンスピン素子の作製・スピン輸送特性の探索を行っている。本年度は、グラフェンへのスピン注入の際に重要となる(1)スピン輸送層として用いるグラフェンシートの作製についてさらに検討を行った。また、前年度までに蓄積したグラフェンスピン素子作製に必要な技術や知見により(2)面内スピンバルブ素子の設計・作製を行った。 (1)グラフェンシートの作製 グラフェンをスピン輸送層として用いる場合には、結晶性や表面平坦性を制御する必要がある。そこで原子レベルで平坦なサファイア基板上へのグラフェンの直接成長を検討した。アルコールを前駆体として用いた化学気相成長により、同基板上のグラフェンの直接成長に成功した。本研究で成長したグラフェンは基板から比較的高濃度にキャリアがドープされていることが分かった。グラフェンの表面平坦性は従来の触媒金属上に成長する方法に比べて高いということが明らかになった。 (2)面内スピンバルブ素子の設計・作製 スピン輸送層にグラフェン、磁性電極にコバルトやパーマロイを用いたボトムコンタクト型の面内スピンバルブ素子を作製した。同素子は、あらかじめ磁性電極を微細加工により作製した後に、同電極の上に輸送層となるグラフェンシートを転写・加工し作製するため、磁性電極の種類や構造の選択肢を大幅に広げることが可能になった。これにより、グラフェン/磁性金属接合を利用した素子作製が可能になった。本研究の素子構造を用いた場合においても、単層グラフェンへのスピン注入にはトンネル障壁の挿入が必要であることが分かった。
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