本研究では、染色等の前処理を施す事無く、細胞膜蛋白質を選択的に可視化することを目指し、非線形ラマン顕微鏡技術の開発を行なうことを目的としている。この際、スーパーコンティニュアム(SC)光を利用し、目的のラマンスペクトルを一度に取得することによって、複数の分子振動情報を同時に得ることができるようにする。 今年度は、上記非線形ラマン顕微鏡作製に先立ち、マルチプレックスコヒーレントアンチストークスラマン(CARS)顕微鏡の作製を行なった。これらの顕微鏡は光学系が類似しており、また、CARS光の方が高強度であるため計測が容易で、装置の性能評価をし易いためである。 作製したマルチプレックスCARS顕微鏡を用いてポリスチレンビーズの計測を行なったところ、1000cm^<-1>付近に環呼吸振動に由来するピークを観測することができた。また、マルチプレックス計測を行なうためには広帯域光源が必要であるが、フォトニッククリスタルファイバーにフェムト秒チタンサファイアレーザー(波長800nm)を入射したところ、4000cm^<-1>以上広がる広帯域なSC光を発生させることができた。これは、指紋領域からCH伸縮振動やOH伸縮振動等が観測される高波数領域を計測するのに十分な帯域を持った光であると言える。さらに、目的の非線形ラマン散乱光はCARS光と比べて微弱であると考えられるので、励起レーザー光の増幅装置を組み込んだ光学系の設計を行なった。
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