本研究の目的は、半導体多層膜共振器構造に埋め込んだInAs量子ドット中の電子スピンを利用した超高速の面型スピン全光超高速スイッチングデバイスを提案し、その基本測定評価を行うことである。特に、光通信波長帯において電子スピン励起による偏光回転を用いた光スイッチで、低いパワーで動作できることを実証することである。平成22年度は、超高速スイッチングにおけるパターン効果抑制のため、15μm帯で吸収を有するEr添加した多積層InAs量子ドットの作製を行い、時間分解ポンププローブ法によってその高い非線形性と、超高速応答性(キャリア緩和時間3ps)を実証した。 平成.23年度では、平成22年度で作製したEr添加InAs量子ドットを有する半導体多層膜共振器構造(Er添加量子ドット共振器)を作製した。その光反射スペクトルと透過型電子顕微鏡の断面像(断面SEM像)の評価により、良質な共振器構造が形成されていることが分かった。また、時間分解光学測定によりEr添加量子ドット共振器の応答速度は4psであり、何も添加していないInAs量子ドット共振器(12ps)に比べて速いことが分かった。電子スピンによる超高速スイッチングを実現するためには、共振器層中のEr添加InAs量子ドットにおける電子スピンによる偏光回転測定を行う必要がある。そこで、1.5μm帯で強い吸収を有する150層積層InAs量子ドットを標準試料とし、電子スピンダイナミクスを偏光回転測定として観測可能な時間分解ファラデー回転測定系の構築を行った。最近、円偏光パルスにより150層InAs量子ドット中に電子スピンが形成でき、量子ドット特有の電子スピンダイナミクスが観測できること確認した。電子スピンによる偏光回転を利用した光スイッチングが可能な光学系を確立でき、今後、高い非線形性を有するEr添加量子ドット共振器を用い、円偏光パルスによる電子スピンの形成、低パワーでの偏光回転の観測を行う。
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