本研究の目的は既存の誘導結合型プラズマ発光分析法(ICP-AES)に匹敵する小型、高精度のオンサイト元素同時分析器をマイクロプラズマとuTASを用いて作製することである。現在開発中の大気圧ICPマイクロジェット(以下AP-ICPマイクロジェット)はICP-AESに使用されるAP-ICPトーチを小型化したものだが、プラズマのガス温度が800Kと低く高精度分析が難しい。またプラズマ径が<1mmと微小であるため、液体試料の安定供給が困難である。平成22年度は上記の課題に対して以下の3項目(1)全元素を励起可能なHeプラズマをパルス駆動化して電子エネルギーの制御を行い、試料からの励起原子密度の倍増、(2)Heプラズマ駆動時のAP-ICPマイクロジェットの冷却方法の検討、(3)光学的プラズマ診断を用いてHeのエネルギー準位が高い励起原子が存在するジェット内の領域を特定し、微小プラズマジェットを乱すことなく安定的に液体試料導入、を検討した。成果は以下のとおりである。(1)パルス駆動時のHeプラズマの動的挙動を高速カメラと分光計を用いて測定した結果、プラズマ進展時にジェット先端に電界集中が起きて電子エネルギーの高い領域が存在していることが分かった。この部分に試料を導入すると試料からの励起原子密度が連続駆動時の3倍になった。(2)Heに0.2%のArを添加し、ペニング効果を利用することによってパワーオフ時間の上限値を126usから10msに延長し、装置の冷却を行うことが可能になった。(3)プラズマ診断よりジェット出口から1mm未満の領域に高エネルギー準位に励起状態のHe原子が集中していることが分かった。この部分にジェットの周辺複数方向から平均粒径6usの霧状の液体試料を導入することによって30分以上安定して試料原子からの発光を観察することができた。
|