既存の誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)は重金属元素を高精度・多元素同時に検出できるが、大型であり試料の前処理が煩雑であるため、リアルタイム、オンサイトで環境試料等を分析することは不可能である。小型ICP-AESと試料前処理マイクロトータルアナリシスシステム(μTAS)の技術融合による装置の小型化が進んでいるが、精度が悪く実用化に至っていない。本研究は小型ICP-AESをオン・オフパルス変調し、パワーオン直後に観察される電子温度と電子密度の上昇・下降速度の相違によって生じる高発光強度のスペクトルを利用してppbレベルの多原子元素同時分析を行うことを目的としている。また、溶液導入システム用μTASを開発することによって試料の高速分離を図っている。特に申請者は全血から血漿成分を高効率で分離させることを狙っている。平成23年度は平成22年度に高速カメラ及び時空間発光分光測定の結果観察されたICF-AESのパワーオン直後のジェット進展の動的挙動について学会発表を通じて議論・考察を深め、論文執筆を行った。当該研究で用いた小型AP-ICPは非平衡プラズマにもかかわらず電界集中、光電離によりジェヅト下流30mm以上でもプラズマが生じた。パワーオン直後の励起種密度は放電管の二次電子放出係数が高いほど強く、放電管内に存在する励起原子の寿命にも依存することを明らかにした。また、申請者は全血から血漿抽出を行うT字型μTASを設計、製作し、血漿分離効率について検討した。煩雑な製作工程、赤血球の破壊(溶血)等を防ぎつつ、高効率で全血から血漿回収を行うためには、流路の圧力勾配を利用し全血入口及び血漿回収流路幅を15μm、血球回収流路幅を45-90μmにすることで、溶血を防ぎつつ既存のT字型FTASの100倍の速度で血漿分離が達成可能であることを実証した。
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