昨年度確立した手法によって作成したペンスリット単結晶爆薬を用い、時間分解型ラマン分光法によって衝撃起爆機構を分子論的な立場から明らかにすることを目的に研究を実施した。ペンスリット単結晶の衝撃圧縮状態の精密測定においては13万気圧までの粒子速度を測定し、インピーダンスマッチング法から導出された真の粒子速度とレーザー速度干渉計によって測定された見かけの粒子速度の関係式を得た。この式を用いることによって、衝撃圧縮による屈折率の変化を考慮した衝撃圧の推定が可能となった。また、パルスレーザーを集光照射することによって発生させた高圧力パルスをペンスリット単結晶に印加し、[110]軸方向に最大ピーク圧力5万気圧の衝撃波を伝搬させ、衝撃波がペンスリット単結晶中を伝搬することによって誘起されたペンスリット分子の振動構造の変化をナノ秒時間分解型ラマン分光法で測定した。ラマン分光実験装置の光学系の改良を進めることで、衝撃圧縮されたペンスリット単結晶のラマンスペクトルをパルス幅6ナノ秒の単発励起光照射によって測定することが可能となった。その結果、ペンスリット単結晶のラマンスペクトルのシフト量やピーク強度、スペクトル線幅の変化は衝撃圧依存性があることを見出した。同じ衝撃圧力で衝撃圧縮した場合においても、振動モードによってスペクトルの変化は異なっており、特にニトロ基の伸縮振動が関連する振動モード(873、1293cm^<-1>)は他の振動モードと比較して衝撃圧に敏感に応答することが分かった。これらの結果から、衝撃起爆現象においてはニトロ基が関わる振動が起爆に影響する可能性があることが分かった。
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