研究課題
本申請課題では、曲面型ナノ構造において観測される(もしくは観測が期待される)特異物性の発現機構、および系の曲面形状と特異物性との相関関係について、大規模数値シミュレーションによる物性推算と理論構築を行った。その結果、幾何学的な捩れや曲がりを伴う曲面型ナノ構造の内部では、系全体の幾何形状が荷電キャリアに有効電磁場作用を供し、通常の平坦系とは異なる秩序相・量子輸送が発現することが明らかとなった。具体的には、周期凹凸円筒構造を有するナノカーボン材料(フラーレンポリマー)の相関電子基底状態において、系の朝永Luttinger指数が凹凸振幅の増加とともに顕著に増加することがわかった。また、捩れ原子(分子)構造で構成される捩れ量子リングに対しては、捩率誘起磁場効果による特異な量子位相干渉効果が起こることを示した。このような幾何曲率・捩率に起因する異常物性の機構解明と、具体的ナノ材料に即した物性推算シミュレーション結果は、幾何形状変形を利用した新規機能性ナノ材料のデザインを促す重要な成果である。上に述べた電子物性解析と並行して、本課題では曲面形状を示す各種のソフトマテリアル(曲面液晶薄膜・曲面発泡体等)について、その秩序過程・分子配向に対する幾何形状効果の解析を行った。力学的な柔らかさを備えた液晶薄膜については、薄膜の弾塑性変形と分子配向秩序との相関を考察するための基礎理論を整備し、有機分子の自己集合体である分子性薄膜の配向秩序機構を詳細に解析した。その結果、液晶膜内に分布する渦欠陥の安定配置が、曲面曲率の恣意的分布により外的に操作可能であることを明らかにした。さらに発泡体の曲面上粗大化過程については、曲面曲率の時間変化により気泡の動的安定性を制御できることを理論的に示した。以上の成果はいずれも、曲面型ナノ構造物性における形状-物性相関を実験に先駆けて予言した新規性の高い成果である。
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