研究課題/領域番号 |
22760058
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
島 弘幸 北海道大学, 大学院・工学研究院, 助教 (40312392)
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キーワード | 形状物性相関 / ナノカーボン材料 / 微分幾何 / 光励起キャリア / 超高速現象 |
研究概要 |
当年度の研究では、曲面量子系の具体例である直鎖型フラーレン重合体の光励起キャリア緩和過程を理論的に解析した。特に同材料の低温秩序相におけるキャリア緩和ダイナミクスを記述する新規理論の確立を図った。従前のボトルネック理論に関して、横波フォノンモードの寄与を取り入れて理論を再構築した結果、異なるモード間のエネルギー散逸量の増加に伴い、緩和時間の温度依存性が転移温度直下で発散する「発散型」から「非発散型」へと変化することがわかった。また、従来のキャリア緩和理論で導出されていた衝突積分を正.しく評価することにより、緩和時間の単調増大現象が再現されることが明らかになった。ギャップ形成物質一般に対して成立する理論的枠組みを得たところで、この理論を前述の直鎖型C60ポリマーに適用し、キャリア緩和データの数値的再現を試みた。その結果、縦波モードから横波モードへのエネルギー散逸を考慮することにより、実験結果が定量的に再現されることが確かめられた。さらに本研究では、直鎖型フラーレン重合体の電荷密度波転移を考察した。その結果、転移の発現機構が、系の電子物性およびフォノン物性に作用する幾何形状効果で理解できることを初めて明らかにした。具体的には、同材料を一次元凹凸ナノチューブの束状凝縮系とみなし、凹凸チューブの電子-フォノン相互作用ハミルトニアンを構築した。次に一次元系に特有のフォノンソフト化現象を議論し、Peierls転移温度の定義を与えた。最後に、系を構成する凹凸ナノチューブの幾何形状パラメータや弾性パラメータを適切に設定し、実験的に報告されている転移温度の値と一致することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本申請課題の主要目的は、曲面型ナノ構造が示す特異物性の発現機構、および系の曲面形状と特異物性との相関関係を理論的に解明することである。幾何学的な涙れや曲がりを伴う曲面型ナノ構造の内部では、系全体の幾何形状が荷電キャリアに有効電磁場作用を供するため、通常の平面系では実現不可能な特異な低温秩序相や量子輸送の発現が期待される。そして当年度の研究では、こうした一電子近似の範囲内での秩序相・量子輸送に対する理解に加えて、低次元系で特に顕著となる電子相関効果とそれに付随する一次元強相関電子系の形状物性相関に対し、当該分野たおいて初めて統一的な理論描像を与えるに至った。この理由から、当初の計画以上の研究進展を果たすことが出来たと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
弾性をもつ導電性ナノ材料の形状物性相関について、自発的対称性の破れの観点から構造力学的な議論を進めるとともに、分子動力学計算と第一原理計算を併用した物性推算を行う。これらの遂行により、解析的な議論に基づくこれまでの結果を分子・原子レベルの大規模シミュレーションで精査し、理論的予測を検証するた;めの具体的実験方法を提案する。
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