本研究の目的は,構造物の非破壊検査での諸問題に,新たに数理工学的観点からアプローチをして,今までに無い簡便化,高精度・高効率化の技術を非破壊検査にもたらすことである.具体的には,非線形可積分系理論や数理計画法をはじめとする数理工学での最新研究成果を駆使して,利便性に優れた新しい構造物健全性評価システムの研究開発を行なうことである.本年度は,昨年度までの研究成果の展開をはかり,検査対象を高分子複合材料などの実用材料にまで広げ,これまでに構築した超音波探傷法の有効性の検討などを行った.一般に,超音波の伝播挙動は媒質となる材料の特性に大きな影響を受ける.特に,様々な強化材を混ぜ合わせた高分子複合材料を対象とした場合,探傷の観点からすると,材質の不均一性は,欠陥と介在物との判別において重要となり,避けては通れない問題となっている.したがって,高分子複合材料を主たる研究対象として,目視による損傷発見が困難な,高分子複合材料の特徴的な破壊形態である内部剥離についての探傷実験を行った.これにより,内部剥離損傷を見つけ出す際の種々の特徴を得て,ノウハウの蓄積やこれまでの研究成果の展開・発展を図ることができた.これらの結果については,学会の講演にて発表し,さらに,査読付論文として既に投稿を行った.また,この研究を遂行していくうえで,昨年度と同様に,他の物理系との数理的アナロジーも発見し,実際に研究過程の中で駆使した数理手法を他の物理系に応用することにより,副産物として,当該分野にて意義のある結果を得ることができた.また逆に,この副産物を得る過程から本来の数理手法の進展も得ることができた.
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