あらかじめ成分を調整した溶接フィラーを用いて作製した2種類のSUS316L溶接試料について、310℃で18000hまで等温時効し、δ-フェライトの硬度測定および微視組織の透過電子顕微鏡(TEM)観察を行うと共に、335℃時効材との比較を行った。また熱間加工再現試験装置を用いて、SUS316L母材に溶接熱影響を再現した熱処理を施すことで、母材の一部(特に粒界三重点)が局部溶融・凝固してδ-フェライト相が析出した組織を作製した。以下に得られた知見を列記する。 1.335℃時効では500h後にはδ-フェライト相が明確に硬化したが、310℃時効では6000h経過後にδ相の硬化が認められた。また、335℃時効材では、凝固モードにより明らかな硬化挙動の違いが存在したが、310℃時効では凝固モードに係わらずほぼ同じ硬化挙動を示した。 2。310℃時効材についてTEMによる組織観察ならびにEDX成分分析を行った結果、δ-γ界面およびδ相内部に介在物や析出物は見られなかった。各凝固モード材の11000h、18000h時効後のδ相のTEM写真より組成の揺らぎを反映したまだら模様を確認した。以上の観察・分析事実から、炉水温度域である310℃においてもδ相がスピノーダル分解により硬化する可能性が高いと判断された。 3.SUS316L母材を用いて溶接熱影響模擬(最大温度:1350℃)材を作製したところ、母材の粒界(三重点)上にδ-フェライト相が析出した組織を作製した。フェライト率は最大で4%程度であった。 今後は材料の成分あるいは熱処理条件を操作することで、δ相分布密度が異なる材料が作製可能であると考えられた。それらの材料を用いて熱時効処理ならびに高温水中応力腐食割れ(SCC)試験を行い、SCC停留モデルに及ぼすδ相分布密度ならびに低温時効の影響を明らかにする。
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