研究概要 |
本研究では,転位の長距離力を直接的に導入することによって,マイクロ・ナノ領域の解析に適用可能な塑性理論を構築した.この理論構築は,離散転位塑性法における重ね合わせ法と数学的均質化法を組み合わせることによって達成された.導出されたミクロ応力とマクロ応力は,ふたつの周期境界値問題の解を用いることによって表現され,これらの表現は従来の弾性複合材料のための均質化理論や一様無限体中での離散転位塑性解析のための応力表現と陽に整合関係を有することが確かめられた.次に,理論の妥当性を示すために,ラメラ複合材料モデルの界面に転位が拘束された問題を解析した.解析の結果として,転位コア近傍(<100nm)の応力場は,二相無限体中に界面転位があるときの閉形解と非常に良い一致を示すことがわかった.つづいて,ラメラ複合材料に発現する塑性寸法効果を解析したところ,まず,界面に堆積する転位の長距離力は,堆積する方向に強い指向性を有しており,後方には負のせん断応力(背応力),前方には正のせん断応力を与えることがわかった.この正のせん断応力は,弾性層が400nmの場合には,弾性層内に作用し,隣接する弾塑性層にはほとんど影響しない.この結果として,弾塑性層内の微視的応力分布および弾塑性層の巨視的応力-ひずみ関係は,すべり面のずれの影響を受けない.一方,弾性層が40nmの場合には,この正のせん断応力は,隣接する弾塑性層に強く影響を及ぼす.すなわち,すべり面のずれが小さいときには,転位源の作用する背応力を弱め,巨視的なひずみ硬化を抑制するのに対して,すべり面のずれが大きいときには,転位源にはほとんど作用せず,弾塑性層内の応力上昇に寄与し,巨視的にはひずみ硬化を促進させることがわかった.
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