研究概要 |
無潤滑状態で摩擦係数0.05以下の低摩擦を実現したダイアモンドライクカーボンコーティング膜の低摩擦係数発現条件を明らかにすることを目的とした.RF・高電圧パルス重畳式プラズマイオン注入成膜(PBIID)法を用いて,スティール製の球および平板に厚さ1μmのダイアモンドライクカーボンをコーティングした.球,平板間で,最大面圧350~1000MPaの条件で摩擦摩耗試験を行った.その結果,面圧700MPa以下では,面圧が減少するにつれて,摩擦係数が高くなり,400MPa以下の面圧では0.3以上の高い摩擦係数を示すことがわかった.また,700MPa以上の面圧では,摩擦係数は0.02から0.05までの低い摩擦係数を示し,無潤滑で超低摩擦現象を発現することが明らかとなった.摩擦係数の推移を詳細に追うと,摩擦係数は試験開始初期ではすべての面圧で約0.15の値を示しており,繰返し回数の増加とともに変化した.低摩擦状態となっている状態から試験条件を変化させた結果,またラマン分光による構造解析の結果,低摩擦現象は膜のグラファイト化や形状変化など不可逆的な状態変化によるものではなく,温度や湿度など接触面での環境の変化であることが示唆された.湿度0,20%の大気中にて,基板の温度の影響を調べた結果,面圧が低い条件でも基板温度が100℃をしきい値として低摩擦現象を発現することが明らかとなった.これらの結果は,超低摩擦現象が周囲の環境に大きく依存することを示しており,工業的な観点から非常に意義深い結果と言える.また,最終目標である低摩擦現象の機構を解明に向けて,鍵となる要因をかなり絞り込んだ.
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