研究概要 |
無潤滑状態で摩擦係数0.05以下の低摩擦を実現したダイアモンドライクカーボンコーティング膜の低摩擦現象の発現要因を明らかにすることを目的とした.RF・高電圧パルス重畳式プラズマイオン注入成膜(PBIID)法を用いて,スティール製の球および平板に厚さ1μmのダイアモンドライクカーボンをコーティングした.球,平板間で,最大面圧1000NPaの条件で摩擦摩耗試験を行った.DLC膜への水の吸着の影響を調べるために,成膜した試料を真空中,湿度30%RH,60%RHにて3週間保持した結果,真空・湿度60%RHで保持したものは低摩擦係数を維持したが,湿度30%RHで保持したものは9日目から急激に摩擦係数が増加することが明らかとなった.水の吸着量は,湿度に依存して高くなり,摩擦係数と吸着量の間には相関がみられなかった.また,X線光電子分光解析により,摩擦係数が上昇したサンプルは,酸素原子/炭素原子の比(O/C+O=0.26)が超低摩擦係数を示すサンプル(O/C+O=0.23)よりも高いことがわかった.さらに,成膜条件を変化させて,より多く酸素を含む膜(O/C+O>0.3)を作成したサンプルは保持環境の影響を受けず摩擦係数は0.03以下のままであった.このDLCは欠陥を多く含み,水分子の吸着サイトが増加することがラマン分光分析の結果よりわかった.以上より,DLC/DLC間の摩擦抵抗は水分子の吸着量に依存し,吸着量増加に対して二つの異なる機構があることがあきらかとなった.
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