研究概要 |
近年,屋内外における転倒事故を原因とする死亡者は年々増加の傾向にあり,その対策が喫緊の課題となっている.また,これら転倒事故による死亡者の90%以上が65歳以上の高齢者であり,高齢社会を迎えたわが国において,転倒事故の防止は重要な課題である.このような転倒事故は,起立,着座,方向転換時などの体位変化時に生じることが多いことが指摘されている.また,前方や後方への転倒よりも,側方への転倒は身体へのダメージが大きく,大腿部頸骨骨折などを引き起こし,高齢者の寝たきりの原因ともなっている.本研究は,側方への転倒を抑制するために,側方へ支持基底面(base of support : BOS)を拡大したフットウェア(BOS拡大フットウェア)を開発し,すべりやすい床面での方向転換動作,着座・起立動作において,優れた転倒抑制効果を有すること明らかにしたものである.具体的には,16名の健常成人を被験者として,グリセリン水溶液を塗布したステンレス製の滑らかな床面上において,直進後,進行方向に60度方向転換する動作および着座・起立動作を行った.このとき,被験者には通常靴と側方外側に7cmほどBOSを広げたBOS拡大フットウェアフットウェアの2種類のフットウェアについて上記の動作を行うよう指示した.その結果,BOS拡大フットウェアは,通常フットウェア着用時に比べ,方向転換動作,着座・起立動作によらず,転倒発生率を60%あるいはそれ以上低減でき,すべりに起因する転倒を大幅に低減できることが判った.また,このBOS拡大による転倒危険性の低減効果は,すべり速度,すべり距離の低減に起因することが判った.
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