研究概要 |
水素含有DLC膜極表面の紫外線処理による低摩擦化処理手法開発のため,異なる3種類の波長の紫外線照射によるDLC膜極表面の構造変化の有無の検証,構造変化層の深さに及ぼす紫外線波長,照射時間,照射時の湿度が及ぼす影響を明らかにするため,紫外線照射装置による異なる波長の紫外線照射と,結晶構造がどのように変化したかをXPSにより分析した.その結果,(1)a-C:H膜に254,312および365nmの波長の紫外線を60min照射した試験片を大気中室温,無潤滑下で摩擦した場合,254nmおよび312nm照射試験片では初期摩擦係数が0.1程度で,その後3mで摩擦係数は0.02~0.05程度まで減少し,この低摩擦状態が56mまで安定した.その後摩擦距離が増加すると摩擦係数は徐々に増加し,最終的に摩擦係数はas-depositedと同程度の0.15程度となった.(2)AFMによる紫外線照射面の表面形状測定結果から,紫外線照射による表面粗さの変化はなく,低摩擦化の原因は表面のグラファイトのような構造への変化が考えられる.(3)XPS分析の結果,312および254nmの波長の紫外線照射によりa-C:H膜の表面はグラファイト化していることが明らかとなった.この構造変化は,312nm以下の波長の紫外線によるC-C結合の切断によって引き起こされたものと考えられる.よって,a-C:H膜の大気中摩擦における紫外線照射による低摩擦化は,構造変化していない硬質層に支持された極表面10nm程度のグラファイトのような低せん断層の形成によるものであると推定される.
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