研究概要 |
我が国では肝疾患に対する有効な治療法として生体肝部分肝移植やPTPE(門脈塞栓術)が行われている。これら治療において,肝臓内の血流バランスが術前後で大きく変化し,この血流バランスの変化は臨床的に術後経過に大きな影響を及ぼすものと考えられている。現在,これら手術・治療の可否の判断はCT,MRI検査をもとにした医師の経験やスキルに依存しており,術前に定量的な予測分析を行う新たな手法の開発,確立が望まれている。そこで本研究では,肝臓内に流出入する血液のおおよそ8割を占める門脈に着目し,同主要血管の3次元形状データをCT, MRI画像データより構築,流動解析を行い,肝手術後門脈の血流バランスの予測手法の確立を目指す事とした。 前年度までは1次分枝のみを3次元化し,それ以降の末梢血管網をフラクタルモデルによりモデル化していたが,本モデルは一次分枝における血管断面形状のみによって末梢血管網の広がり,大きさを推算するため,3次元モデルの抽出の操作に強く依存するという欠点があった。そこで本研究の最終年となる本年度は門脈の2次,3次分枝を含めた門脈3次元モデルを構築した。これまで2次以降の血管網はCT,MRI上で鮮明に撮影することが困難であったため,造影剤を投与し当該領域の鮮明にすることを試みた。フラクタルモデルを適用して門脈血流のCFD解析を行ったところ,前年度と比べ流量バランス,圧力損失のばらつきが低減され,また,肝移植やPTPEなどの術後の血流バランスおよび門脈に働く応力の変化を現状においても,十分に予測可能である事が確認された。その一方でより詳細な,より正確な解析を行うためにはこれまで剛体として考えてきた末梢血管網の弾性変形を考慮すべきである事が明らかになった。本研究は本年度にて終了する事になるが,今後も引き続き本研究を継続し,肝臓解析モデルの構築に努めて行く予定である。
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