研究概要 |
炭素質PM(すす粒子)は炭化水素燃料の不完全燃焼に起因して生成する有害物質である.近年では,ディーゼル車のディーゼル微粒子除去装置の負荷低減や高効率燃焼装置開発の要求から,炭素質PMの生成量低減やその構造形態制御を可能とする燃焼技術の開発が求められている.しかしながら,すす粒子の火炎内における成長挙動や構造形態と燃焼特性との関連性については不明な点が多い. 平成23年度は,拡散火炎内の各位置ですす粒子を採取し,ラマン分光法による解析を行い,火炎内におけるすす粒子の構造変化について詳細に調べた.その結果,拡散火炎内におけるすす粒子のグラファイト化の進行は火炎温度の影響が強く,火炎温度の比較的高いn-パラフィン系の燃料の燃焼で生成するすす粒子は比較的グラファイト化度が高いことが分かった.そして火炎帯近傍になると,グラファイト化の進行が収束する様子が見られたが,この位置には非常に強い酸化作用を有するOHラジカルが存在するため,すす粒子が酸化を受けたことによりグラファイト化度の進行が収束したものと推測される.また,アモルファスカーボン由来のラマン散乱光に注目したところ,OHが生成され始める位置より散乱光強度の減少が確認され,結晶構造を持つグラファイトカーボンよりも非結晶構造のアモルファスカーボンの方が優先的に酸化を受けることが示唆された.一方,芳香族系燃料であるベンゼンの拡散火炎内で採取したすす粒子については,火炎上流ではグラファイト化度が高いものの,火炎温度が比較的低いためにその後グラファイト化が進まないことを表す結果が得られた. このような火炎内におけるグラファイト化度の進行や酸化反応に関する知見は新規的なものであり,火炎内におけるすす粒子のメカニズムを解明するうえで貴重なデータである.また,ディーゼル微粒子除去装置におけるすす粒子の酸化性を検討するうえで有用な基礎データにもなる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は炭素質PMの炭素構造と燃焼性の関係について重点的に研究を進める予定である.炭素質PMの燃焼性は,ディーゼル車のディーゼル微粒子除去装置の負荷低減や高効率燃焼装置開発を行ううえで重要な情報である.そこで,赤外線加熱炉を用いて炭素質PMの燃焼性について調べ,ラマン分光による構造解析の結果と比較することで炭素構造と燃焼性の相関性を考察する.
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