炭素質PM(すす粒子)は炭化水素燃料の不完全燃焼に起因して生成する有害物質である.近年では,ディーゼル車のディーゼル微粒子除去装置の負荷低減や高効率燃焼装置開発の要求から,炭素質PMの生成量低減やその構造形態制御を可能とする燃焼技術の開発が求められている.しかしながら,すす粒子の火炎内における成長挙動や構造形態と燃焼特性との関連性については不明な点が多い. 平成24年度はプロパン層流拡散火炎を対象に,ラマン分光法で解析した火炎内におけるすすの炭素構造と,過去にレーザ分光法を用いて測定した火炎内における燃料,多環芳香族炭化水素(PAHs),すすおよびOH濃度分布を基に,火炎内におけるすすの生成,成長から酸化に至るまでの履歴による炭素構造の変化について考察した.その結果,ノズル出口より燃料濃度が減少すると同時にすすの前駆物質であるPAHsが形成され,PAHsは火炎下流に行くに従いその濃度と分子量が増加し,すすが検出され始める直前では炭素数が20~24程度の大きさのPAHsが存在することが分かった.すす核はこのようなPAHsの凝縮で形成され,その後すす粒子は火炎下流に行くに従いPAHsのすす粒子表面への吸着や水素引き抜き-アセチレン付加反応(HACA mechanism)などで成長したと考えられる.すす粒子成長と同時に,すす粒子を構成する炭素結晶子サイズの増加が確認された.火炎温度と火炎内におけるすす滞留時間を考慮すると,結晶子サイズはサーマルアニーリングの進行で増加したのではなく,HACA mechanismにより結晶子が成長したもの推察された.そして,すす粒子がOHが存在する領域に入ると,酸化により結晶子サイズとアモルファス炭素が同時に減少することが確認された.以上より,すすの火炎内における履歴がその炭素構造に大きく影響することが明らかとなった.
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