今年度は,高速度赤外線カメラを用いて,エンジンの圧縮爆発過程を模擬した急速圧縮機内での熱炎発生前の冷炎反応時温度分布の測定を行った.均質予混合自着火(HCCI)エンジンにおいては,圧縮により高温となった予混合気の時着火により燃焼が開始する.自着火過程は,燃料分子の分解による低温度の冷炎反応と,その後の急激な温度上昇を伴う熱炎反応に分けられるが,HCCI燃焼においては,予混合気のどの部分から冷炎反応が開始され,どの部分から熱炎反応が開始されるかを把握することが重要である.本研究では,CO2の4.4μmの波長帯を利用して,ナローバンドパスフィルタを通して特定の波長域のふく射強度を測定することで,冷炎発生時および熱炎発生時のシリンダ内温度分布をとらえることに成功した.この結果,例えば,ノッキング現象回避のためにシリンダ内に燃料濃度の勾配をつけて圧縮自着火を行った場合,比熱比が小さく圧縮後温度が高くなる領域から冷炎反応が開始される様子が観察された.この傾向は,予混合気の局所当量比が0.1程度と非常に低い場合でも観察され,冷炎開始位置は圧縮後のシリンダ内温度分布に大きく影響を受けることが分かった.一方で,熱炎反応は必ずしも温度の高い場所から開始されるわけでなく,当量比と局所温度がある一定の条件となった領域から開始するため,低温度領域から熱炎が拡大する現象が見られた.これは,当量比が低すぎる場合は,比熱比の影響から冷炎反応は早期に開始するが,その後の熱炎反応までの着火遅れ時間が長く,当量比の高い低温度領域での着火遅れ時間のほうが短くなったためと考えられる.
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