研究概要 |
固体高分子形燃料電池(PEFC)は,次世代の自動車用動力源等として実用化が期待されているが,高性能化に向けて解決すべき技術的課題は未だ多い.中でも,カソード側での生成水が多孔質状のガス拡散層の内部で凝縮を起こし,反応に必要な酸素の供給を阻害するという「フラッディング現象」は極めて深刻な問題である.この問題を解決するためには,PEFCセル内における水分輸送現象の基本的理解が重要であり,そのための計測評価手法の確立は必要不可欠である. そこで本研究では,光ファイバを用いたキャビティ・リングダウン(CRD)分光法を応用することにより,燃料電池セル内の微量な水蒸気を高感度かつ高時間分解能で定量測定できる独自の「CRDレーザ分光計測システム」を開発した.本計測システムでは,CRD分光法の光学キャビティとして,カプラを用いた光ファイバループ(ループ長:200m)を構築し,そのファイバループ内に水分測定用プローブ(光路長:25mm)を配置した.測定プローブには,直径5μmのサンプリングロを設けられており,水蒸気ガスがキャビティ内に直接採取できるようになっている.さらに,光源部となる半導体レーザから発振させた水分に吸収のある高速パルス光(波長:1.39μm)をキャビティ内に入射させ,多数回周回した光(ループ回数:20回,実効光路長:0.5m)のリングダウン波形をAPD受光器で検出することによって,ppmオーダーの水蒸気濃度を高感度かつ20μsの時間分解能で定量測定することに成功した. 本研究で開発したCRD分光計測システムは,ファイバループ方式の導入により,実効光路長を0.5mまで長尺化でき,一般的な吸収分光測定と比較すると,50倍もの感度向上を実現させた.さらに,20μsの時間分解能を達成しており,PEFCセル内の水分濃度計測への応用が十分可能であると考えられる.
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