研究概要 |
一昨年度までの研究では,ヒトの視覚情報の神経生理学的遅れを模擬したロボットシステムを構築し,100msという著しく大きな視覚情報の遅れが内在するロボットハンドにおける操り制御が達成できることを,シミュレーションと実験を通して明らかにした.この知見をベースとして昨年度(22年度)は,2指1自由度対構造であったロボットハンドを,ヒト指の筋骨格構造を模倣した2指5自由度対向把持構造に改良設計し実機を製作した.ここでは示指の遠位指節間関節(第一,二関節の間)の連動動作を機構に採り入れ,アクチュエータを削減することに成功した.関節数に対するアクチュエータ数を減らすことで,ヒト指の動作に近い関節運動を実現した.また,手指動作の器用さや巧みさは拇指と示指による摘み動作を指すと考えられるが,両指間の対向構造が物体操り能力に直接的に関連することが理論的解析によって明らかになってきた.上記の2指5自由度ロボットハンドを想定した理論解析の場合,指先の弾性エネルギーを含んだシステム全体のエネルギーから容易にリアプノフ関数を求めることができた.これによって,従来から提案してきた直列2段階姿勢制御手法(Serial Two-phased Controller)が対向把持形態に適合した制御手法であることが明らかになった.更なる理論解析によって,2指によって把持・操り中の対象物姿勢角が漸近的に目標角度に収束することが分かった.以上の知見は,ロボットの制御系を簡素化することにつながり,ヒト手指の構造を模倣するとその上位である運動制御系をより簡潔に表現できることを示唆するものであり,画期的な発見であるといえる.
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